ブックセレクトをしていただいたのは、選書集団「BACH(バッハ)」のメンバー、山口博之さん。 BACHは、本屋やショップ、病院や公共施設などさまざまな場所に置く本をコンセプトに合わせて選書する活動を中心に、本にまつわる執筆や編集、イベント企画など「人と本が出会う環境づくり」の仕事をされています。 山口さんは2014年3月にミュージシャン・坂本美雨さんと結婚され、今年の7月には第一子となる女の子が誕生。初めての子育てに戸惑いながらも、積極的に育児に取り組む毎日を送られているようです。 そんな子育て奮闘中の山口さんに今回、親として読むKindleマンガを紹介していただきます。妊娠・出産の勉強になったり、育児の悩みを笑い飛ばしてくれる作品があるようです。 さて、どんなラインナップなのでしょうか・・・? 過去のKindle記事 <プロフィール> 山口博之(やまぐち・ひろゆき) 編集者/ブックディレクター。 1981年仙台市生まれ、立教大学文学部卒業。学生時代の雑誌「流行通信」編集部アルバイトを経て、04年から旅の本屋 「BOOK246」に勤務し、07年より選書集団「BACH」に所属。個人でも「TABLOID」などの選書をはじめ、企画、編集、執筆などを行っている。『持ってゆく歌 置いてゆく歌』(大谷能生)、『KIGI キギ』(植原亮輔+渡邉良重)などの編集を手がける。 <WEB>BACH公式サイト 正しいマーケティングのための戦略と戦術は「銀河英雄伝説」で学んだ。アナグラム阿部圭司氏がオススメする【Kindle書籍この1冊】 <山口さんのオススメPOINT> 現在4巻まで刊行されている「まんが親」。作者吉田戦車さんの娘さんは作中成長し、現在5歳になりました。もともと吉田戦車さんのファンでしたが、この作品は実録マンガなのでいつもの吉田戦車・不条理節が炸裂するだけじゃないのが、読みどころ。赤ん坊という大人にとってそもそも不可解な存在が、成長とともに条理を覚えていく過程がとてもリアリティがあり、自分に子どもが生まれてから読むと、ゲラゲラ笑う作品というより育児の先輩から子を見る楽しみ方を学んでいるような気持ちになります。このマンガがどこまで続くのかも気になります。娘さんの自我がよりハッキリしてくると「私をマンガのネタにしないで!」と抵抗し、吉田さんが執筆を断念するかも・・・? 奥さんの伊藤理佐さん側から描いた『おかあさんの扉』というエッセイマンガもあります。両方合わせて読むと、違う子育ての視点が見れて、より楽しいかもしれません。 子育てはたしかにしんどくて大変なのですが、いちいちおもしろがって子どもを観察すれば楽しめるようになる気がしています。 ★Kindle購入は、こちらから→ 吉田戦車『まんが親』

2)岡田あーみん『お父さんは心配症』

(作品紹介) 1984年から1988年まで「りぼん」で連載されていた岡田あーみんの代表作。 妻に先立たれたサラリーマンの佐々木光太郎は、高校生の娘が非行に走らないかと毎日気が気じゃない。娘はいたって普通の女の子に成長して、その彼氏も珍しいくらいの好青年だが父・光太郎は心配が行き過ぎてその行動はどんどんエスカレートしていき、さまざまなハプニングを引き起こしていく・・・。 <山口さんのオススメPOINT> 古くから愛読されている名作マンガですが、自分に娘が生まれてから読み始めました。生まれる前は、自分の子どもが男の子でも女の子でもどちらでもよかったのですが、いざ女の子が生まれると「いま撮ったこの写真は結婚式で使うのかな・・・」と、すでに嫁いでいく淋しさみたいのを感じている自分がいました・・・。 その淋しさを過剰に描いたギャグマンガであるこの作品。自分は光太郎のような行動を取らないですが、娘をもった自分には身につまされるような部分も少しあります(笑)。子どもの成長は本当にあっという間だと思うので、このマンガを読んだら「仕事にかまけて子どもとの面白い時間を見逃してはいけない」という風に思うようになりました。 また当時のケータイがない時代の恋愛が、いまの10~20代の人たちには新鮮に映ると思いますよ。彼女の実家に電話をするのも緊張していたとか、その時代にしかなかったドキドキが。 ★書籍購入は、こちらから→ 岡田あーみん『お父さんは心配症』

3)東村アキコ『ママはテンパリスト』

(作品紹介) 29歳で出産をした人気漫画家・東村アキコが、育児にテンパリながら愛息子「ごっちゃん」の成長過程を描いたエッセイマンガ。作品のキャッチコピーは「すいません 育児ナメてました」。イタズラ好きでなかなか寝付かないごっちゃんは、3歳になっても離乳ができない。なぜかおっぱいが大量に出続ける作者はもう離乳について諦観している・・・。5万部売れたら大ヒットといわれる育児マンガの世界で、累計100万部を超える売り上げを記録。全4巻。 <山口さんのオススメPOINT> 育児エッセイものなんですが、ただただマンガとして面白い優れた作品です。「テンパリスト」というタイトルどおり、いつもドタバタしていて平坦な時間がほとんどない生活の様が、大変そうでもあり、ゲラゲラ笑えもします。東村さんの作品はもともと親や先生のような、実代の人物をモチーフにした作品が多いですが、この作品も主役「ごっちゃん」が最高の役者となっています。このマンガを読んだのは、まだ自分自身が結婚や出産をまったく意識してなかった頃。育児ってこんなドタバタなのか・・・と、笑いながらも圧倒されました。いま自分に子どもが生まれてから改めて読むと違った感想を抱くかもしれませんね。「育児に悩むよりも、笑い飛ばして進んでこう」という爽快な気分になります。子どもがいても、いなくても誰が読んでも面白い作品です。 ★Kindle購入は、こちらから→ 東村アキコ『ママはテンパリスト』

4)鈴ノ木ユウ『コウノドリ』

(作品紹介) 男性誌「モーニング」で連載されている妊娠・出産のマンガ作品。主人公の鴻鳥サクラは、ジャズピアニストでもある産婦人科の医師。「切迫流産」や「人工妊娠中絶」など妊婦やその家族とさまざまなテーマで話が展開していく。2015年10月から綾野剛主演でテレビドラマ化もされて大きな話題を呼んでいる。 <山口さんのオススメPOINT> 自分たちの妊娠・出産の時期に、いちばん役に立ったマンガです。産科医というのは堕胎手術をする、唯一人の命を殺めることが許されている医師。子どもが生まれるというのは幸せなことばかりじゃなくて、不安に思うこともとても多い時期です。何が起きるか分からない、どう生まれてくるかも分からない。親の努力だけではどうすることもできないことも多く大きな葛藤を抱く人もいます。切迫早産であるとか、未熟児が生まれてくるとか、出産時の母親の命の危機とか・・・。いろんな出産のケースをどんな風に肯定的にとらえていけばいいのか、本当に勉強になるマンガです。読んでいると不安を覚えるかもしれませんが、知っておいたからこそ現実に対処する力も備わると思います。文字ばかりの育児本を読むのが苦手な人は、このマンガをオススメします! ★Kindle購入は、こちらから→ 鈴ノ木ユウ『コウノドリ』

5)田亀源五郎『弟の夫』

(作品紹介) 弥一と夏菜、父娘二人暮らしの家に、マイクと名乗る男がカナダからやって来た。マイクは、弥一の双子の弟リョージの結婚相手で、リョージが亡くなり彼の故郷・日本を訪ねてきた。「パパに双子の弟がいたの?」「男同士で結婚って出来るの?」幼い夏菜は突如現れたカナダ人の”おじさん”に興奮し、弥一は動揺しながらも三人の不思議な家族生活がスタートする・・・。 <山口さんのオススメPOINT> 田亀源五郎さんはゲイアートの巨匠と呼ばれている方。これまではゲイのエロティック作品を多く描かれていましたが、この『弟の夫』は初の一般誌連載作品。娘の夏菜は、同性愛の知識がまったくないので、「どっちが夫で、どっちが妻なの?」「男同士で結婚できる国と、できない国があるのはどうして?」などまっすぐに疑問をぶつけてきます。弥一はそれを説明しながら「ゲイだからって、特別でもなんでもないんだ」という認識を深めていきます。酔っ払ったマイクがリョージと間違えて弥一に襲い掛かろうとしたりと、ゲイの親族と暮らす普通の人の戸惑いをリアルに描写。いわゆるBL恋愛モノではなく、「国の制度やこれまでの常識を超えて、純粋に家族とは何か」を問うテーマなので、一般読者でもとても共感しやすい作品だと思います。 ★Kindle購入は、こちらから→ 田亀源五郎『弟の夫』

(番外編)中室牧子『学力の経済学』

(作品紹介) 子どもはほめて育てるべきなのか? 勉強させるためにご褒美で釣るのっていけないのか? 「ゲームが子どもに与える影響」から「少人数学級の効果」まで、今まで「思い込み」で語られてきた教育の効果を経済学の理論や手法を用いて分析している応用経済学の本です。 <山口さんのオススメPOINT> こちらはマンガ作品ではなく書籍なのですが、小さいお子さんがいらっしゃる方は面白く読めると思い選びました。中室牧子さんは経済学者の先生です。「ご褒美で釣ってはいけない」「ほめ育てはしたほうがよい」「ゲームをすると暴力的になる」といったこれまでの常識を、経済学に基づいて覆しています。子どもの教育にかけるお金を「投資」という視点で見たときに、どんなタイミングで子どものためにお金を使うと将来リターンできる大人に成長できるのか、データを基に分析されている内容。「ゲームは教育によくない」と言っている教育学者は個人の経験だけで語られているので、全体の統計から見たときにそれが本当なのか、その思い込みの教育で子どもの可能性をつぶしていないかを考えるという意味で、ひとつの参考になると思います。「テストで100点を取ったらお小遣いをあげる」という結果(アウトプット)に対するご褒美よりも、「本を読んだらお小遣いをあげる」のような過程(インプット)に対してご褒美をあげたほうが、勉強の結果が伸びるというデータが出たというのも目かウロコでした。 そんなにページ数が多くなく、とても分かりやすい経済学の本ですのでぜひ。 ★Kindle購入は、こちらから→ 中室牧子『学力の経済学』 しかし端末で読んでいるとメールやLINEなどの通知表示がされたりするので、読書がとぎれとぎれになりがち。集中して本の中に没頭したいとき、私は紙の本を選ぶようにしています。 電子と紙の両方を都合よく選んで読書が楽しめるようになったのは、とても嬉しいことです。 ネットサーフィンと読書を比べると、ネット情報は常に更新が可能のものなので区切りがあるようで、ないもの。かたや本はひとつの考えを編集してパッケージングして完結しています。ネットにも面白いブログや読み物が多数あるので、どっちがいい悪いという話ではないのですが、本はひとつの考えとじっくり対峙したいときに向いているプロダクトです。 作り手の意図がたくさん詰まっている本の世界はとても奥深く面白い世界が広がっています。電子でも紙でもいいので、気になった作品があったらぜひ購入して読んでみてくだい。 (取材・文/勝俣利彦) <関連記事> 正しいマーケティングのための戦略と戦術は「銀河英雄伝説」で学んだ。アナグラム阿部圭司氏がオススメする【Kindle書籍この1冊】

                             Kindle   5      - 57                             Kindle   5      - 1                             Kindle   5      - 44                             Kindle   5      - 73                             Kindle   5      - 52                             Kindle   5      - 5                             Kindle   5      - 48                             Kindle   5      - 21                             Kindle   5      - 51                             Kindle   5      - 81                             Kindle   5      - 83                             Kindle   5      - 93